想い人さんへ
あなたはいつも背筋をピンと伸ばしてましたね。
ユニフォーム、濃紺色のポロシャツと白のパンツが、とてもよく似合っていた。
リハビリの時に、並んで一緒に同じ運動すると、
あなたはまるで、NHKの体操の先生みたいに手足がスッと伸びて、
丈もあり姿勢がいいから、すごくカッコいいのよね。
私が横で、運動がヘタッピでおかしなポーズになって、
バランス取れずに「わっ」とか「きゃっ」とか言うたびに、
あなたは小さく「フフッ」と笑う。私が声を上げるたび。
時々出ちまうS気質だけど、それもまた、私的には好きでした。
ポロシャツの襟のところに、生地と同じ色の小さなボタンが2つ。
ユニフォームの可愛さは、たぶん女性スタッフが選んだから。
紺と白の品のあるユニフォームを着た
大柄なあなたの襟元だけがちょっと可愛くて。
胸には金色の糸でフルネームが刺繍されていて、
あなたのファーストネームが昭和っぽい(?)のを指摘したら、
「オレは昭和の頃、もう母親の腹の中に居たんだ。」と言ったっけね。
その頃(平成元年=昭和64年=1989年)もう私はすでに成人して24歳だったわけで、
その頃のことを思い出すと、悲しい年の差を感じます。
私が北関東で、生まれて初めての就職をして、
市会議員の選挙運動でウグイス嬢なんて柄にもない事をやって、
若くてピチピチしていた頃、
あなたはまだ、お母さんのおなかの中に居たなんて。
結局、誕生日がいつなのか聞かずじまいだったけれど、
8月当初で34歳、平成元年生まれってことは、
今年の8月までのいつかの日に、あなたは35歳になるんだものね。
それでもまだまだ青年貴族。(←この言い方こそ昭和の化石。)
若さってね。
だんだん、だんだん、気が付かないうちに失われていくものなのよ。
だから今のうち、充分若さを楽しみなさい。
内に秘めたエネルギーを、発散しなさい。
私の好きなミーシャの歌に、気になる歌詞があるの。
「男達は刻をかけて揺りかごを探す
女達は時代をかけて揺りかごになる」
「冬のエトランジェ」の一節だけど、これ聞くたびに胸がじんとする。
ああ、私はあなたの揺りかごになりたかったよ。
あなたが求めるものは知っていたのに。
男って皆、結局、そうだよね。
多かれ少なかれ、女に母を求める。
私はそれを知ってたし、だから私は与えたかった。
私、きっと、あなたにとても合った、揺りかごになれたと思うんだよ。
あなたの苦しみを、私の愛で埋めたかったの。
心の隙間を満たしたかったの。
私には、それができた自信があるの。
私もその苦しみを、知っていたから。