「虫の知らせ」の「ありがとう」
昨年の今ごろ、
もう旦那さんは、そろそろお迎えが来ることを、
どうやら、わかっていたようなのです。
もちろん、脳梗塞というのは急にやって来るものだし、
病気のためにもうすぐ自分は死ぬ…という明確なものはなかったでしょうけど、
でも、なんだかどうも、わかっていたような気がするんだなぁ。
もしかしたら前に書いたかもしれませんが、
去年の母の日の直前に、
いきなり、私に赤いカーネーションを買ってきたのです。
「私、あなたの母親じゃないのに。
今までそんなこと、一度もしたことないのに。なんで?」
具体的にどういう会話があったかは覚えていませんが、
「感謝の気持ちだよ」と説明したと思います。
感謝の気持ち、といえば、
亡くなる2~3週間前あたりから、
旦那さんは夜、ベッドに行く前に、必ず私にお礼を言ってから寝るようになりました。
ちょうどそのころ、私はある資格試験の勉強をしていて、
ほぼ毎日、旦那さんより遅くベッドに入る生活だったのですが、
夜、私がリビングのテーブルを占領して勉強道具を広げていると、
旦那さんは寝室に行く前に、毎晩必ず、まっすぐ私のほうを向いて、
「大好きだよ。大事だよ。ありがとうね。」と言うのです。
少し前までそんな習慣はなかったし、
私は、「ん?ちょっとヘンなの」と思いながら、
深く考えもせず、
「はいはいはい、こちらこそ、いつもありがとね」などと
顔も上げずに言ったものです。
結局最後まで、
なぜ急に感謝の言葉を言い始めたか、理由は聞かないでしまいました。
旦那さんのお葬式で、お義母さまにお会いしたのですが、
旦那さんは母の日に、カーネーションを持って訪ねて行ったのだそうです。
きっと鉢を買う時に、ふたつ一緒に買ったものだと思います。
本当に久しぶりのことで、とても驚かれたのだそうで、
お義母様は「何か虫の知らせがあったのかも」とおっしゃっておられました。
私も同じことを考えました。
虫の知らせってあるものなのね。
自分の死…、自分の存在が消えてなくなるという悲しい予感。
説明はできないけれど、
見えないが、何か強烈なエネルギーが働くのかもしれません。
そうでなければ、カーネーションの贈り物は百歩譲るとしても、
死ぬ3週間前からの、寝る前の「ありがとう」は、説明が付かないような気がするのです。