いつの間にか、あなたの知らない風景に。
職場に通う国道の道すがら、
前に住んでいたアパートのそばを通るのですが、
そのアパートから国道に出る坂道の脇に建っていた、
古い小さな、小屋のような家の、取り壊しが始まりました。
その家は、国道からすっかり見渡せる場所に建っているのですが、
私たちが前のアパートに住んでいた頃は、
いつもそのそばを通るので、
あるのが当然だったし、ほとんど気にしていませんでした。
だけど、いざ取り壊すとなって、
道路に、規模はとても小さいけれど交通規制がされていたり、
作業服着た兄ちゃんたちが何人かいたり、小さな重機が動いていたりして、
はぁ~、いよいよ取り壊されるのか、と気持ちが少ししんみりします。
私たちが前のアパートに住んでいた頃は、
その小さな家に、住んでる人がいたのです。
家自体は本当に粗末で、
窓にサッシも使ってない古い家で、
まるで昔の炭鉱長屋みたいな平屋の家でした。
でもその家には、老人のご夫婦が住んでいて、
洗濯物が干してあったり、庭には何かガラクタ的なものが置いてあったり、
いわゆる生活臭みたいなものが感じられていたのです。
そしてなんだか、素敵でお洒落な家よりも、妙に親近感を感じたりしてね。
なんとなく肩ひじ張らなくてよくて、ほっとするというか。
だけどあれから数年経って、
たぶん、住んでいた方が福祉施設に行ったか、入院したか、あるいは亡くなったか。
家を壊すのなんてあっという間だから、
数日経ったらもう、すっかり更地になってしまうのでしょう。
はかないなぁ、というか。
かつて、旦那さんも私も、毎日当然のように横の道を通っていたのに。
そして何故だかそういう時って、
その風景って永遠にあるものだと思ってしまうものですね。
ずっとずっと変わらずにそのままだって。
いつまでもあるものだって信じてしまっている。
そうやって、いろんなものが少しずつ変わっていくんですね。
そして気が付いたら、いつの間にか全然知らない風景になっている。
いつの間にか、あなたのいない風景に。
いつの間にか、あなたが知らない風景に。
無機質で、寂しい、悲しい風景です。